法律翻訳の場合は、法律の知識が必要となる
法律翻訳でチェックしておきたい海外の法律
法律文書はもちろん、ビジネスの契約書の翻訳にも法律の知識が必要です。
特に世界の法曹界あるいは様々なビジネス分野では、圧倒的に英語で文書が書かれていることが多く、海外の法律知識が最も重要になります。
しかし、ここでいう「英語圏の法律知識」とは、法律用語の英訳や英単語の知識だけを指すわけではありません。
ビジネスの契約書の場合は、相手方の国の法律に関する知識、法体系なども把握しておかなければ、正確な翻訳ができないのです。
そこで英語を使った法律翻訳を行う際に、チェックしておきたい海外の法律をご紹介します。
1. 英国法(the laws of England)
英語圏の法律として最も有名なものは、いわゆる「英国法」(the laws of England)でしょう。「イギリス法」とも呼ばれるものです。
ちなみに、イギリス(the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)とは、正式には「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」と訳し、イングランド、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドの4つの国で構成されている連合国を「イギリス」と呼ぶのが一般的です。
「the law of England」は「England」とあるかぎり、本来は「イングランド法」と訳されるべきかもしれませんが、ここでは一般的に知られている「英国法」という表記を用います。
英国法の歴史は、1066年にウィリアム1世がイングランド王となり、ノルマン朝を開いて現在のイギリス王室の祖となったときから始まるとされています。この英国法は、現在「英米法」(common law/コモン・ロー)と呼ばれる法制の基礎となりました。
英国法(イングランド法)が適用されるのは、イングランドとウェールズで、スコットランドと北アイルランドは各々の司法制度を有しています。
イギリスにはもともと憲法がなく、国王を中心とした封建制度のなかで、裁判においては過去の判例をもとにして裁判所が判決を下し、またその判例を積み重ねて法律が出来上がりました。
ここから「コモン・ロー」が発展していきます。
2. 英米法(common law)
英国法――判例に基づいた法律を基礎として発展した法律体系を「コモン・ロー」(common law)と呼びます。日本語に訳す際は、「英米法」という表記が一般的です。
コモン・ローはアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、香港など、かつて英国の植民地であった国々で採用されています。
英国では1154年、国王ヘンリー2世が過去に実施されていた陪審制を復活させ、その後、英米法系の国々でも陪審制がとられています。
コモン・ローは判例を積み重ねて成立してきたものなので、たとえばひとつの事件で判決が下された場合、後々の同様の事件もその判例に従うべき、というのが原則です。
一方で、時代が変わるにつれ、そうした判例(法律)はどんどん過去のものになっていき、その時代に当てはまらないケースはたくさん出てきます。
そこで英米法系ではコモン・ローで解決できない分野において適用される、エクイティ(eruity/衛平法)が用いられるようになりました。
過去の判例に基づく、厳格な性質を持つコモン・ローに対し、エクイティはコモン・ローでは解決できない分野への救済措置的な意味合いを持っています。また、コモン・ローでは陪審審理が行われますが、エクイティでは陪審心理が用いられません。
英米法系に関しては、翻訳者もコモン・ローとエクイティの違いについては、しっかり認識しておいたほうがよいでしょう。
もちろん英米法系でも、議会で新しい法律が制定されれば、古い法律よりも新しいものが有効となります。その意味では、常に新しい法律をチェックしておくことも重要なのです。
3. 大陸法(civil law)
大陸法(civil law)とは、英米法(コモン・ロー)に対して、ヨーロッパ大陸で発展した法体系です。英語を直訳すれば「市民法」となります。
その起源は古代ローマの「ローマ法」にあり、ローマ帝国が拡大するに従って、ヨーロッパ諸国に広まりました。
英米法の最大の特徴が、裁判所の判例の積み重ねによって作られてきた法律であるならば、大陸法は成文法(文字によって成文化されている法律)であるという点でしょう。
もちろん英米法も成文法を完全に否定しているわけではなく、英米法を採用している国でも成文法(新しい法律が制定されるなど)がある場合は、判例より成文法が優先されます。
また英米法が陪審制をとっているのに対し、大陸法は「参審制」(一般市民から選出された参審員と裁判官が評議を行い、判決を下す制度)をとっています。
2004年5月に成立し、2009年5月より施行された日本の裁判員制度は、この大陸法の「参審制」を参考としています。
というのも、日本の法律は大陸法を採用しているからです。
大陸法はフランス、ドイツ、フィンランドなど北欧諸国などで用いられ、米国の一部の州でも大陸法の影響を受けた法律を制定しているところがあります。
日本は明治維新の際、法制度の確立においてドイツやフランスなどの大陸法系の影響を強く受けました。特に大日本帝国憲法は、ドイツのプロイセン憲法の影響が強いとされています。
第二次世界大戦後、連合軍総司令部(GHQ)の占領下にあった日本は、アメリカ法の影響を受けた法律もいくつか制定されました。とはいえ、アメリカの陪審員制度と異なる裁判員制度を見ても、やはり日本の法律は現在でも大陸法系の影響が強いといえるでしょう。
4. 法律翻訳に必要なこと
上記のとおり、ひとくちに「法律」といっても英米法と大陸法というふたつの法体系があり、法律に関わる文書を作成する場合は、その性質を把握しておかなくてはいけません。それは法律文書の翻訳も同様です。
ただし、翻訳者は法律の専門家ではありません。どちらかといえば、海外の法律がどのように書かれているか、海外との交渉や契約に際し、どのような文章を書けばよいかという知識や技術が問われます。
さらに翻訳会社では、英語のネイティブに加え、法律の専門家によるチェックも行われており、それこそがプロフェッショナルな仕事といえるでしょう。
法律分野の翻訳は、翻訳者ひとりでは難しい部分が多々あります。翻訳会社にとって重要なのは、各分野の専門家を揃えることなのです。
お見積もりは無料です。お気軽に翻訳会社JOHOまでお問い合わせください。